運動器検診

原俊明

運動器検診の背景

 成長期の子どもの健全な発育と発達にとって、適度な運動は不可欠である。ただ、現代の子どもは身体活動やスポーツへの係わり方が2極化してきている。つまり、早い時期から競技スポーツを行う子どもたちが増え、一方でメディアの氾濫の影響などもあり、ほとんど運動をしない子どもも増加している。前者は、未熟な運動器に負荷がかかりすぎ、結果として生涯続くかもしれない骨・関節の障害を生じかねない。出来るだけ早期にその疾病や障害の兆しを発見して対処することが、その子供の将来に大きな意味を持つと考えられる。後者は成長期に獲得すべきバランス能力、筋力、体の柔軟性などの発達が害われ、結果怪我をしやすい、学業に必要な姿勢の維持や集中の持続が出来ないなどの問題を生じかねない。さらに、肥満や生活習慣病の発生に繋がる危険を孕んでいる。

本事業の目的は、学校における運動器検診体制を整備・充実することで児童・生徒の運動器障害やスポーツ障害を早期発見し、適切な指導・教育・治療を施し、心身の健全な成長・発達に結びつけることにある。

法律上の規定

学校保健安全法実施規則の一改訂(平成26年4月30日通知)により、「四肢の状態」を必須項目として加えるとともに、四肢の状態を検査する際には、四肢の形態及び発育並びに運動器の機能の状態に注意することを規定された。

運動器検診の原則

平成28年4月から、小・中・高等学校及び高等専門学校の全ての学年での実施する。
体力測定などの場では無く、学校健診の中での実施しなければならない。

マニュアルの配布

「児童生徒等の健康診断マニュアル・平成27年度改訂版」に沿って実施する。

運動器検診の対象

A案:全ての児童生徒の家庭に「運動器検診調査票」を配布 して、健診時にチェックのある内容に応じて上肢・躯幹・下肢の状態を評価し、マニュアルに沿って簡易検査を実施する。

B案:小学5年生の児童、中学2年と高校2年の生徒の家庭に「運動器検診調査票」を配布 して、健診時にチェックのある内容に応じて上肢・躯幹・下肢の状態を評価し、マニュアルに沿って簡易検査を実施する。他学年は従来の健康調査票を利用するが、運動器に係わる項目にチェックがあれば、必要な部位の簡易検査を実施する。

A案で実施することを原則とするが、学校や学校医の事情によりB案を選択することも可能とする。いずれを対象とするかは、学校と学校医間で協議して決定する。

いずれの場合も、脊柱側わん検診は従来通り高学年の全児童および全生徒に対して行う。B案を採用した際にも原則には配慮して、運動器検診を全ての児童・生徒に対して調査票の確認・視診を実施するといったスタンスを維持されたい。

運動器検診の実際

準備

養護教諭は、家庭での観察結果を記載して提出された保健調査票の整形外科のチェックがある項目を整理する。可能であれば、体育やクラブ活動の担当者と連携し、チェック項目の観察を健診前に実施し、情報を整理しておく。

方法

1 養護教諭は、上記の整理された情報を、検診の際に学校医に提供する。

2 学校医は、提供された情報を参考に側弯症の検査を行う。四肢の状態等については、入室時の姿勢・歩行の状態に注意を払い、伝えられた情報を基に、必要に応じて、本マニュアルや「児童生徒等の健康診断マニュアル」の留意事項を参考に簡易検査を行う。

※ 限られた時間の中ですべての部位の簡易検査を実施することは困難であるため、調査票と養護教諭の情報をもとに、上肢・体幹・股関節と下肢のいずれかの必要な部位に対して簡易検査を行う。簡易検査としては、形態と基本動作の視診、可動域制限・疼痛・圧痛の有無等の確認を行う。 この際に養護教諭は児童生徒に対して手本を見せる、口頭で指示するなどで基本動作を誘導する。予め基本動作を児童生徒に練習させておくことは、検診の精度と効率を高める上で極めて重要である。

※ 基本動作についてはYou Tubeなどにて「アニメ版運動器検診マニュアル体操」 (日本臨床整形外科学会作成:アニメ版の運動器検診マニュアルとマニュアル対応体操)にて閲覧できる。

(YouTube、jcoa作成 アニメ版・運動器検診マニュアル&マニュアル対応体操のページ)

簡易検査例

1 検査例側弯症 2 検査例屈曲伸展
3 検査例腕伸ばし 4 検査例片足立ち

判定

学業を行うのに支障のあるような疾病・異常が疑われる場合には、運動器検診調査票(運動器検診結果を含む)のコピーと本マニュアルに添付した受診勧奨の様式を配布して、専門医への受診を指示する。

運動器検診調査票H29.4.1版

こちらから、PDFファイルをダウンロード

受診勧奨(例)

こちらから、PDFファイルをダウンロード

運動器検診の開始に向けての事前準備

  • 運動器検診の実施に向けては、運動器検診に係わる小委員会(H27.10.14)、郡市医師会学校保健担当理事会議(H27.10.6)、上伊那医師会・上伊那養護教諭専門部会懇談会(H27.11.19)等で意見集約を図った。
  • 運動器検診調査票と運動器検診(二次検診)受診勧奨票の様式を作成し、各学校に配布した。
  • H28年3月に次項のスライドを利用して、上伊那南部(駒ケ根市)、伊那市、上伊那北部(箕輪町)整形外科専門医により、上伊那郡下の学校医・養護教諭等に対して4回に及ぶ運動検診に関わる講演会を実施した。
  • H29年4月にも同様の講演会を実施する。

運動器健診とその実際

講演会資料 (つちかね整形外科院長・土金彰氏作成)

はじめに

平成26(2014)年4月30日に文部科学省から「学校保健安全法施行規則の一部改正」により『「四肢の状熊lを必須項目として加えるとともに、四肢の状態を検査する際には、四肢の形態及び発育並ぴに運動器機能の注庶することを規定する』ことが通知され、平成28年(2016)年4月1日より実施されることになった。
すなわち、これまで運動器(整形外科)疾患としては、脊柱側弯症や胸郭の検診項目が実施されていますが、新たに上肢・下肢などの四肢や骨• 関節の運動器障害についての検診項目が加わることとなった。

運動器健診とは

「運動器」とは、骨、関節、筋肉、靱帯、腱、神経など体を支えたり動かしたりする器官の総称です。消化器、循環器、呼吸器と同様に体を構成する大切な仕組みの一つです。
近年は競技スポーツ開始時期の低年齢化による運動器の使い過ぎによる症例、例えば野球肘などが増加しています。
その一方少子化や放課後の塾通い、テレビゲームやスマホの使用増加などにより運動習慣の少ない子供たちも増えています。運動器は使いすぎ、使用不足ともに子供の将来に影響を与えます。

「運動器検診」は骨格の異常やバランス能力、関節の痛み、可動域制限がないか等、四肢体幹を検診することにより、運動の過不足による障害を早期にチェックし、早期に介入して、子供の将来にわたって健康を守ることを目的とする検診です。

運動器健診の実際

1 検診実施前の事前調衣と情報収集(学校、投諮教諭の担当)

(1) 家庭における運動器の状態の確認
 ア 保健調査票
 イ 運動器検診調査票

(2) 情報収集
 ア 学級担任による確認(けが・欠席、普段の姿勢など)
 イ 体育教諭・クラプ活動担当者による確認
 (体育の授業の欠席状況、運動の状況なとう
 ウ 前年の検診の確認(経過観察事項など)

2 学校医による診察

学校医は上記1の情報に甚づき、該当部位を確認し、精密検査の必要性を判断

運動器検診の実際を示します。
まず検診実施前の事前調査と情報収集ですが、これは学校、特に養護教諭の方の担当となります。
保健調査票と運動器検診調査票を家庭に配布し、保護者に書いてもらいます。特別な事情がない限り保護者に書いてもらい、養護教諭や担任等は書きません。これは保護者に子供の運動器に関心を持っていただくことも運動器検診の目的の一つだからです。
養護教諭は保健調査票と体育教諭やクラブ活動担当者から情報を収集し、整理をします。
養護教諭は整理した情報を健康診断の際に学校医に伝え、学校医はそれらの情報に基づき運動器検診を行います。
3 事後措置

(1) 学校は、学校医が専門医受診が必要と判断した児童生徒の家庭に受診勘奨する。(その際、家庇通知に運勁器検診調査票を添付する。)

(2) 学校は受診結果を確認し記録する。

検診後の事後措置としては学校医が視触診で運動器の異常が疑われる場合は養護教諭に通達する。
保護者及び本人に整形外科専門医への受診を勧奨する。整形外科受診後は専門医からの通達を養護教諭が回収する。
これが一連の流れとなります。

担任、保健体育、クラブの顧問の先生、養護の先生へのお願い

学校生活において
  • 歩行、立ち上がり、姿勢、運動時に不自然な動きがある。
  • 歩いているときに左右に体が揺れる。
  • 走っていて転ぴやすい。
  • 上手に座れない(体が傾いている)。
などの状態に注意してください。

保健室に同じところの痛みを訴えてよく来るか。
同じ個所のケガ等があるか注意してください。

担任、保健体育、クラブの顧問の先生は養護教諭と学校生活でのスライドのようなことに注意して、情報を密に共有していただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

運動器健診調査票

スライドは今年上伊那地区で使用予定の運動器検診調査票です。
学校医の先生方に確認していただくことは網掛けの項目です。
これから各項目についてどの疾患を想定しているかを、順を追ってお示しします。

【注】運動器検診調査票H28.4.1版は本マニュアルに添付してあります。
こちらから、PDFファイルをダウンロードしてください
    上肢の動きについて
  1. 肘の曲げ伸ばしをした時に痛みはありますか?
  2. 腕を伸ばした時に、肘がまっすぐ伸びないことがありますか?
     → 野球肘
  3. 普段からバンザイをした時に、肩に痛みがありますか?
     → 野球肘や、野球肩、および脊柱側わん症
  4. 背中・腰の動きについて
  5. 立った姿勢で後ろから見て、肩の高さに左右差がありますか?
  6. 普段から「ねこ背」で、肩に頻繁に「こり」がありますか?
  7. 普段から背中を左右に捻じる時に痛みがありますか?
  8. まっすぐ立った姿勢から、膝を伸ばしたままで、両手をそろえて前かがみになった時に、肩や背中の高さに左右差がありますか?
     → 脊柱側わん症
  9. 普段から身体を前屈や後屈したとき、腰に痛みがありますか?
     → 腰椎分離症、(腰椎椎間板ヘルニア)
  10. 下肢の動き・体のパランスについて
  11. 膝の下の部分に腫れや、苦痛を伴う痛みがありますか?
     → オスグッド病
  12. 左右の片足立で、苦痛を伴う股関節の痛みがありますか?
  13. しゃがみ込みで、股や膝に苦痛を伴う痛みがありますか?
     → 股関節疾患であるペルテス病や、大腿骨頭すべり症、発育性股関節形成不全など

1 (特発件)脊柱側わん症

11歳以上の思春期側わん症が最も多く、85%は女子。頻度は0.5~2%

脊柱側わん症は脊柱が何らかの原因で側方且つ捻じれを伴い弯曲した状態であり、検診の目的は構築制側わんの早期発見です。
特発性側わん症は11歳以上の思春期側わんが多く、女子に多い。頻度は0。5から2%と比較的多く認められます。
診断は肩の高さ、肩甲骨の高さ、ウエストラインの左右差と前屈位での肋骨隆起、腰部隆起をみる方法があり、特に前屈検査の有用性が高いとされています。

2 腰椎分離(すべり)症

成長期の腰椎の過度な伸展や屈曲による椎弓の疲労骨折。
頻度は男性で3~7%、女性で1~4%で運動する人は3倍。
運動時、特に伸展時に腰痛が誘発される。

腰椎分離症は成長期の腰椎の過度な伸展や屈曲による椎弓の疲労骨折で、頻度は男性で3~7%、女性で1~4%で運動する人は3倍といわれています。
運動時、特に伸展時に腰痛が誘発されることが多いのが特徴です。
左が単純レ線像で、有名なスコッチテリアの首輪の像が認められます。右のCT像では分離部が認められます。

3 野球肘

10~16歳の少年、特に野球の投手に多い。他にバレーボールや剣道でも生じることあります。
肘の内側、外側或いは後方の痛みがあり、進行すると肘関節の可動域で左右差が生じます。
野球肘発生のメカニズムは投球時に肘関節の内側には牽引力が、外側には圧迫力が、後方には衝突牽引力が働き、各部分に障害が生じます。
このうち内側障害頻度は高いですが、重症例になることは少なく、外側型・後方型の頻度は低いものの、手術療法が必要となることが多くなります。

野球肘の画像

左のレ線は内側型障害で、内側側副靱帯の付着部が剥離骨折様になっています。
右のレ線とMRI画像は外側型の離断性骨軟骨炎で、上腕骨小頭にのう胞状変化を認めます。

4 歩行の異常

歩行の異常があれば、股関節、膝関節、足関節などの関節疾患はもとより、その他の脊椎疾患、全身性の疾患、神経疾患などが疑われるので、早急に整形外科あるいは小児科受診が必要。

歩行の障害があれば股関節、膝関節、足関節などの下肢の関節疾患はもとより、脊椎、神経疾患などの他の疾患も考えられるので、跛行が長期間継続している場合は専門医に受診が必要と思われます。

5 ペルテス病

大腿骨近位骨端部(骨端核)が阻血性壊死を起こす疾患。
発症は3~12歳で6~7歳が最も頻度が高い。
男子に多く、♂:♀= 5 : 1。発生は1万人に数人程度。
初発症状は股関節から大腿及び膝の痛みと跛行が多い。

ペルテス病は大腿骨近位骨端部(骨端核)が阻血性壊死を起こす疾患で、阻血の原因ははっきりしませんが、この時期に骨頭を栄養する動脈が1本のみでこれが何らかの原因で閉塞すると考えられています。
発症は3~12歳で6~7歳が最も頻度が高いです。
男子に多く、♂:♀=5:1で、発生は1万人に数人程度とされています。
初発症状は股関節から大腿及び膝の痛みと跛行が多い。左のレ線像は右股関節の骨頭が硬化扁平化し、つぶれています。右のMRI画像では骨端核が低シグナルとなっています。

6 大腿骨頭すべり症

思春期の成長が盛んな時期に大腿骨近位の成長軟骨部で骨端が頚部に対してすべる疾患。
10~16歳の男子に多く、特に肥満の子供に多い。
♂:♀=2.5:1。発生は1万人に1~2人。
初発症状は股関節痛、跛行、股関節の可動域制限が多い。

大腿骨頭すべり症は思春期の成長が盛んな時期に大腿骨近位の成長軟骨部で骨端が頚部に対してすべる疾患で 原因はホルモン異常や外傷などの説がありますが、確定されていません。
10~16歳の男子に多く、特に肥満の子供に多く、♂:♀比は2.5:1で、発生は1万人に1~2人とされ、急性型と慢性型があります。
初発症状は股関節痛、跛行、股関節の可動域制限が多いとされています。

7 発育性股関節形成不全(DDH)(先天性股関節脱臼)

周産期及び出生後の発育過程で大腿貸頭が関節包内で脱臼している状態。
女子に多く、♂:♀=1:5~9。発生は1000人で1~3人程度。
生後の健診や保育指溝のため学校検診で見つかることはほとんどない。

以前は先天性股関節脱臼といわれていましたが、出生後の発育過程でも脱臼が生じることがわかったため、現在ではdevelopmental dysplasia of the hip (DDH) といわれるようになりました。
周産期及び出生後の発育過程で大腿骨頭が関節包内で脱臼している状態で、女子に多く、♂:♀比は1:5~9、発生は1000人で1~3人程度です。
生後の健診や保育指導で頻回にチェックを受けるため、学校検診で見つかることはほとんどありません。
左の写真は2歳児の左股関節脱臼みのがし例、右は小学生の左臼蓋形成不全例です。

8 オスグッド病

大腿四頭筋の過度な収縮により膝苔腱の腔骨付着部傭骨粗面)に慢性的な機械的刺激によって生じる。
腔骨粗而の運動時痛と腫脹が症状。
スポーツによるオーバーユース(使いすぎ)から発症することが多く、小学校高学年から中学校の男子に多い。

オスグッド病は大腿四頭筋の過度な収縮により、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)に慢性的な機械的刺激によって生じる疾患です。
脛骨粗面の運動時痛と腫脹が症状。スポーツによるoveruseから発症することが多く、小学校高学年から中学校の男子に多発し、頻度は多いものの重症例となることは稀です。

某整形外科医院での疾患の頻度

脊柱側わん症62例(男24例、女48例)
野球肘102例(全例男)
腰椎分離症93例(男60例、女33例)
ペルテス病19例(男15例、女4例)
大腿骨頭すべり症0例
発育性股関節形成不全
先天性股関節脱臼
16例(男1例、女15例)
オスグッド病98例(男91例、女9例)
では、実際にこれらの疾患はどのくらいの頻度があるか、開業9年目で約3万人の患者数の某整形外科医院のデータを示します。全例高校生以下の症例です。
野球肘とオスグッド病はやはり多く、ほとんどが男性です。オスグッド病での手術例はありませんが、野球肘の重症例である離断性骨軟骨炎の4例は信州大学で手術をしています。
腰椎分離症も比較的頻度が多く、やはり学童期の運動選手に多くみられました。
ペルテス病も意外に多く、小学校低学年に集中していました。これらの症例は多くはこども病院紹介となっています。
股関節形成不全及び先天性股関節脱臼は殆んどが乳児期か治療後の症例で、小中学校時に見つかったものはありません。
大腿骨頭すべり症もありませんでした。

各項目ごとの事後措置への判断の目安

  1. 肘の曲げ伸ばしをした時に痛みはありますか?
  2. 腕を伸ばした時に、肘がまっすぐ伸びないことがありますか?
  3. 普段からパンザイをいた時に,肩に痛みがありますか?
    (野球肘の疑い)


    主に左右差を比較していただき
    ・わずかな可動域制限 ──── 経過銀察・簡易指導
    ・はつきりした可動域制限 ──── 整形外科要受診
    (肘の伸展制限、明らかな左右差など)
  4. 立った恣剪で後ろから見て肩の高さに左右差がありますか?
  5. 普段から「ねこ背Iで、肩に頻繁に「こ町がありますか?
  6. 普段から背中を左右に捻じる時に痛みがありますか?
  7. まっすぐ立った姿跨から、膝を伸ばしたままで、両手をそろえて
    前かがみになった時に、肩の高さに左右差がありますか?
    (脊柱側わん症の疑い)
    ・前屈テストで明らかな肋骨隆起、腰部隆起がある
    ・ウエストライン、屑甲骨、肩の高さに明白な左右差がある ──── 整形外科へ要受診
  8. 普段から身体左前屈や後屈したとき腰に痛みがありますか?
    (鞣椎分離症、腰椎椎間板ヘルニアの疑い)
    ・どちらかで痛みがあるが2週•間未 満であり、日常生活や運動時に支陪なし経過観察・簡易指導
    ・どちらかで痛みがあり、2週間以上続くか日常生活や運動時に支障あり整形外科へ要受診
  9. 膝の下の部分に腫れや、苦痛を伴う痛みがありますか?
    (オスグッド病の疑い)
    ・痛みがあるが、日常生活や運動時に支倖なし ──── 経過観察・簡易指導
    ・痛みがあり、日常生活や運動時に支倖あり一整形外科へ要受診
学校医の先生方が各項目毎の事後措置の判断をする目安を「運動器の10年」日本委員会のHPを参考として示します。
1~3の上肢の動きは主に野球肘のチェックですが、左右の肘を比較していただき、わずかな可動域制限の場合は経過観察・簡易指導肘の伸展制限、明らかな左右差などはっきりした可動域制限がある場合は整形外科への受診させてください。
脊柱の4~7の項目は脊柱側弯症のチェックで前屈テストでの明らかな肋骨隆起、腰部隆起がある、ウエストライン、肩甲骨、肩の高さに明白な左右差がある場合は整形外科へ受診させてください。
8. の腰椎疾患の疑いの場合は2週間以上継続する痛み、日常生活や運動に支障をきたす場合は整形外科を受診させてください。
9. のオスグッド病の場合も日常生活や運動に支障がある場合は整形外科受診とさせてください。

要受診(整形外科を紹介する)

・歩行障害の訴えがある場合、或いは認められた場合。
・動作時痛があり、運動や日常生活に支障がある場合。
・関節の可動域に明らかに左右差がある場合。
迷った場合

以上、整形外科要受診をまとめますと歩行障害、跛行がある場合、動作時痛があり日常生活や運動に支障がある場合、関節可動域に左右差が明らかな場合、そしてどうしようか迷った場合は整形外科受診とさせてください。

運動器検診関するQ&A

  • Q1 文部科学省はどんな方法を推奨していますか? 上伊那医師会ではどのような方向を考えていますか?
    A1 文部科学省の指針では、家庭からの保健調査票または問診票と、学校における健康観察(体育・クラブ活動等)を経て、何らかの異常を指摘された児童生徒の、異常個所のみに対して運動器検診を行うことになっている。上伊那医師会としてはこれに医学的判断を加えて、より過不足のない方法をとれないかを模索してきた。例えば脊柱わん症検診に関しては、調査票記入時の保護者の見落としの可能性も考慮され、小学校高学年以上のを該当学年全員に実施することが望ましいと思われる。導入当初の負担増や混乱を考慮すると、小学校低学年においては脊柱側わん検診を実施せず、 ほかの内科的検診項目に時間振り向けることが妥当と思われる。いずれにしても各自治体または学校ごとによく検討して適切に対処して頂きたい。
  • Q2 運動器検診にはどのくらいの時間がかかりますか?
    A2 要簡易検査率の多寡、簡易検査の実施方法、事前準備の状況、学校医と養護教諭の習熟度等によって異なるが、検診時間は、 内科健診のみに比して15~20%増加するものと予想される。
  • Q3 検診時の服装はどうしたら良いですか?
    A3 脊柱側弯検診が含まれる小学校高学年以降では、上半身裸で試行するのが望まれるが、大きく首・背中部分の空いた下着のみの着用も認められる。学校医が検診を行う上で円滑かつ適切に出来ることを前提として、学校医の判断に委ねられる。
  • Q4 簡易検査における一連の動き(基本動作)は練習したほうがいいですか?
    A4 短時間に的確な動作を必要とするので、体育に時間などを利用して、準備運動の一環としての練習が望まれる。ただ、練習の際にも、基本動作が出来ないことで虐めや嘲笑の対象となったり、児童・生徒にとって劣等感を抱くことのないような配慮が求められる。また、この練習の際に明らかな異常があれば、その情報も検診時に養護教諭を通じて学校医に知らされることが望ましい。
  • Q5 検診時に児童生徒に基本動作をとらせる際に、学校医が動作をして見せる必要がありますか?
    A5 簡易検査の標準化を図るためには、養護教諭が予め基本動作を習得して、必要な部位の簡易検査にとして必要な動作の手本を示す、または予め練習ができていれば口頭指示によって動作を誘導することが望ましい。
  • Q6 検診時に調査票の保護者のチェックがない場合にはどうしたらよいですが?
    A6 簡易検査の全般を行わざるを得ない可能性があり、養護教諭は事前に充分に確認し、学校健診時には記入漏れがないようにしていただく。
  • Q7 検診対象者に関わるB案では、運動器検診の対象を小5、中2、高2としていますが、その年齢とした理由はありますか?
    A7 特発性側わん症は小学校高学年に生じ易く、競技スポーツ等が本格的に始まってからスポーツ障害が顕性化するまでにはタイムラグがある。残りの在校期間で障害を悪化させることなく学校生活を支障なく過ごすためには、この年齢での実施は妥当と思われる。
  • Q8 この運動器検診を実施する背景となった2極化の一方の、運動をほとんどしない児童・生徒への対応はなされているのでしょうか?
    A8 当初、長野県教育委員会、長野県医師会から提案されて運動器検診調査票の中には体のバランス、柔軟性を問う項目が含まれていました。それを削除せざるを得なかった背景には、限られて時間とマンパワーの中ではそこまで対処できないといった現場の意見が反映されてきたものと思われる。現状においては、運動不足の解消に関して体育教育を主体とした学校教育全体での取り組みに期待したい。
  • Q9 今後も上伊那郡においては、このマニュアルに示された方法で運動器検診を継続していくのでしょうか?
    A9 このマニュアルは、運動器検診元年となるH28年度の運動器検診が適正かつ円滑に実施されることを目指して作成した。実施対象や実施方法も、経験が積み重ねられ、検診を振り返ることでより実のある検診に発展することを願っている。
    なお、H29年度の学校健診では新たに成長曲線の活用が加わり、学校医及び養護教諭の負担増が考慮され、原則としてH28年度と同様の方法で実施されたい。