「けんしん」とは
「けんしん」には「健診」と「検診」という文字が使われますが、その違いをご存知でしょうか?「健診」はいわゆる健康診断あるいは健康診査を意味します。つまり、健康かどうかを調べ病気の危険因子を早く見つけ出すことがその主な目的です。代表的なものには厚生労働省の指導のもと各市町村や職場が行う特定健康診査(特定健診)や会社での定期健康診断あるいは学校健診などがそれにあたります。一方、「検診」は、ある特定の病気を早期に発見して早期に治療することを目的にしており、代表的なものには、がん検診や骨粗しょう症検診などがあります。
「けんしん」の種類
市町村が行う主な健診を表1に示します。特定健康診査はいわゆるメタボ健診と呼ばれご存知の方も多いと思います。糖尿病、脂質異常症、高血圧、肥満の有無といった、いずれも動脈硬化に関わる因子を調べることが目的です。
また、若年者健康診査や後期高齢者健康診査も特定健康診査と同様に動脈硬化すなわち心臓や脳の血管系の病気を予防する目的の健診であり循環器健診と総称されることが多く、市町村によっては各々「さわやか健診」あるいは「はつらつ健診」など独自の名称を用いている場合があります。費用の自己負担額は無料~2000円程度とかなり幅があり、市町村、保険の種類、年度によっても異なります。これはすべての「けんしん」に言えることで、自己負担額だけでなく対象年齢、施行間隔や施行場所、さらに検査方法も市町村、あるいは年度によっても異なりますので注意してください。
職場が行う健診を表2に示します。表1で説明した特定健康診査は職場でも行われ、通常は職場で行うことが優先となります。雇入時健康診断は雇入れ時に行う健診で、定期健康診断は特定健康診査の年齢に該当しない方の健診です。また、生活習慣病予防健診は定期健康診断や特定健康診査にがん検診などが追加されている場合が多いようです。労災2次健康診断では表に記載したように一定の条件を満たした方の動脈硬化すなわち心血管系疾患の危険性をさらに詳しく評価するための検査が追加されます。労災2次健康診断と先に述べた特定健康診査では心血管疾患予防のための生活指導、栄養指導、運動指導をなど行う特定保健指導が付加されているのが特徴です。
費用の自己負担額は職場により異なりますので担当者にご確認頂く必要がありますが、労災2次健診の費用は国から給付されますので自己負担はありません。労災2次健診に関する厚生労働省のホームページのアドレスを末尾(*1)に記載しておきますので細かな内容はそちらをご確認ください。
他の一般健康診断には特定の物質を扱う仕事や深夜業などが含まれる特定業務従事者の健診(6か月に1回)、海外派遣労働者の健康診断などもあります。また、一般健康診断以外には特殊健康診断、じん肺健康診断、歯科医師による健診などがあります。
対策型がん検診を表3に示します。がん検診には対策型がん検診と任意型がん検診があります。前者はがんの死亡率を減少させるために、科学的に有効性が証明された方法で市町村や職場などが行う検診です。一方、後者は医療機関などが任意で行う検診で、必ずしも有効性が示されたわけではない検査も含まれますが有効性が期待される新しい検査なども含まれることになります。表には対象年齢、実施間隔、検査方法を記載していますが、これらはすべて厚生労働省が勧めている内容で実際には各市町村により異なります。上伊那地域6市町村では胃がん、大腸がんの対象年齢を引き下げている自治体があります。また、検査方法を見てみると胃がん検診では胃カメラを、肺がん検診では胸部CTを、乳がん検診では年齢によって超音波検査を用いている市町村があります。自己負担額は市町村国保加入者で(非加入者ではおおよそ2倍と考えて下さい)、胃がんが500~1300円程度、大腸がんが300~800円、肺がん検診がCT検査で1300~3500円となっています。乳がん検診ではマンモグラフィーを受ける場合1300~5000円、子宮頸がん検診では900~1500円となっています。ただ、いずれの検診も節目の年齢では全額補助により自己負担額なしとしている市町村がありますので必ず確認してください。
その他の健(検)診を表4に示します。前立腺がん検診は国からの推奨はないものの泌尿器科学会はその有用性を主張しており一部の市町村あるいは職場での検診として行われています。泌尿器科学会は50歳以上年1回の検診を勧めています(家族歴のある方は40歳あるいは45歳以上)。自己負担金は市町村国保加入者で500円前後となっています。
結核健(検)診(どちらの表記も使用されています)は学校や医療関係の職場で働く方以外に65歳以上の方にも義務付けられています。結核感染者の多くが75歳以上の方であることが理由です。多くの場合自己負担はありません。
肝炎ウイルス検診は40歳の方と41歳以上で未受診の方を対象とすることが多いようです。費用は1930円ですが、全額補助の市町村から補助なしの市町村まで様々です。
骨粗しょう症検診と歯周疾患健(検)診は厚生労働省が勧めている検診で一部の市町村で行われています。お住いの地域の情報をご確認ください。
これまで述べてきた「けんしん」は概ねその受診が義務付けられており市町村や職場が中心となって「けんしん」を進めています。それに対して義務ではなく自主的に病気の有無を調べるために行う「けんしん」が、いわゆる人間ドックになります。脳の評価に特化した検査を集めた脳ドック、比較的女性に多い甲状腺の病気を調べるための甲状腺超音波検査や甲状腺ホルモン検査、腫瘍マーカーや腹部超音波検査などを用いたがん検診(これらが任意型がん検診に当たります)、物忘れの評価を目的とした検査、睡眠時無呼吸症候群検査など、検査項目は「けんしん」機関によって様々で検査の組み合わせにより多種、多様なコースがあります。また、これまでに述べた特定健康診査や対策型がん検診にオプションとしてこれらの検査を組み込むことも可能です。先ほども述べたように人間ドックは自主的に行うものですので費用は基本的にすべて自己負担ですが市町村によっては助成金制度を設けていますので直接お問い合わせください。
表1 市町村が行う健診
国保特定健康診査(40~74歳) | 年1回 | 基本項目 問診 / 診察 / 身体計測 / 血圧測定 / 血液・尿検査 詳細な健診 心電図 / 眼底検査 / 貧血 / 血清クレアチニン検査(腎機能) |
若年者健康診査(39歳以下) | 年1回 | 特定健診と同じような内容になります |
後期高齢者健康診査(75歳以上) | 年1回 | 特定健診と同じような内容になります |
表2 職場が行う健診
一般健康診断
雇入時健康診断 | 年1回 | 問診 / 診察 / 身体計測 / 血圧測定 / 血液・尿検査 / 心電図 / 胸部レントゲン検査 |
定期健康診断 | 年1回 | 項目は雇入時と同じ 但し、一部の対象者では医師の判断で一部の項目について省略可能 |
特定健康診査(40~74歳) | 年1回 | 基本項目 問診 / 診察 / 身体計測 / 血圧測定 / 血液・尿検査 詳細な健診 心電図 / 眼底検査 / 貧血 / 血清クレアチニン検査(腎機能) |
生活習慣病予防検診(35~74歳) | 年1回 | 定期健康診断あるいは特定健康診査からさらに項目を充実させた健診 |
労災2次健康診断 | 年1回 | 定期健康診断等(1次健診診断)で血圧 / 血糖 / 血中脂質 / 肥満度(腹囲)のすべてに異常があった方を対象 心臓や血管を評価するため心臓や頸動脈の超音波検査を含む |
表3 対策型がん検診
胃がん(50歳以上) | 2年1回 | バリウム検査もしくは胃カメラ(バリウム検査は年1回、40歳以上に実施可) |
大腸がん(40歳以上) | 年1回 | 便潜血検査 |
肺がん(40歳以上) | 年1回 | 胸部レントゲン検査および喀痰検査 |
乳がん(40歳以上) | 2年1回 | マンモグラフィー |
子宮頸がん(20歳以上) | 2年1回 | 子宮頚部細胞診 |
表4 その他の健診・検診
前立腺がん検診 | 50歳以上年1回 | 血液検査 |
結核健(検)診 | 65歳以上年1回 | 胸部レントゲン検査 |
肺炎ウイルス検診 | 40歳以上年1回 | 血液検査 |
骨粗しょう症検診 | 40歳以上5年毎 | 骨密度測定 |
歯周疾患健(検)診 | 40歳以上10年毎 | 歯科検察・歯周病検査 |
「けんしん」の重要性
最後に、比較的多くの方が関わる特定健康診査と対策型がん検診を通して「けんしん」の重要性をお話します。
メタボ健診とも呼ばれる特定健康診査は平成20年に始まりました。メタボリックシンドロームの判定には腹囲、血糖(糖尿病)、中性脂肪や善玉コレステロール(脂質異常症)、血圧(高血圧)などが含まれます。カッコ内に示したのは、すべて生活習慣病と呼ばれる疾患であり生活習慣の改善により状態の改善が見込める一方、これらはすべて動脈硬化を進行させる、いわゆる動脈硬化の危険因子であることから放置すれば心筋梗塞や脳卒中など重篤な疾患に繋がるものばかりです。心筋梗塞を含む心臓病や脳卒中はいずれも日本人の死因の上位を占めているだけではなく(心臓病が2位、脳卒中は4位です)健康寿命にも大いに関わる疾患です。健康寿命とは生活に何ら制限を受けることなく健康に生活できる期間をいいます。男女ともに平均寿命の内、おおよそ最後の10年は何らかの生活制限を受けています。健康で長生きするためにはメタボリックシンドローム含む生活習慣病やその前段階(予備軍)を早期に発見し、その方に合った生活習慣の改善を進めることが不可欠です。このため特定健康診査には特定保健指導と呼ばれる生活習慣の改善を手助けする仕組みが備わっています。生活習慣の改善という地道な方法は薬の内服や手術などの医療行為に比べ地味な印象を受ける方が多いかもしれませんが、その効果は大きく非常に有効な手段です。国が税金を使って特定健康診査や特定保健指導という制度を設けているのはそのためです。
次は対策型がん検診についてお話します。先ほども述べたように対策型がん検診には5種類ありますが、これらが選ばれているのには理由があります。
- がんになる可能性と死亡率が比較的高い(日本人の死因の第1位はがんです。その中で上位の3つが肺がん、大腸がん、胃がんになります)
- 安全で精度の高い検査がある
- 治療法が確立されており、早期発見、早期治療の有効性が期待される
の3つで、いずれも科学的根拠に基づいています。しかしながら、このように検査や治療の安全性と有効性が証明されているにも関わらず現在も受診率の低さが問題となっています。がんの種類や性別によって異なりますが、いずれも受診率は、おおよそ50%前後であり比較的受診率が高い検診でも55%に届かないのが現状です。
平成19年4月1日がん対策基本法が施行され、平成30年12月14日には健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に関わる対策に関する基本法が公布されました。すべての疾患に法律が定められているわけではなく、がんや心血管病が法律の対象とされた意味は、これらの疾患が我々の健康を脅かす重大な問題であることに他なりません。特定健康診査やがん検診はいずれも無料もしくは少額の自己負担で受けることができる基本的な「けんしん」です。是非、「けんしん」を受けて我々の健康を脅かす疾患を早期に発見し、生活習慣の改善も含めた早期治療を行うことで健康寿命を延ばしましょう。
*1 労災2次健診に関する情報